他社との契約を終了させるにあたり、取りうる方法と、どのような手続きが必要なのかについて、解説します。
他社との間に有効な契約が存在する時に、様々な事情から契約を解消したいと考える場合があります。契約を終了させる方法はいくつか考えられますが、契約書の規定内容によって選択できる方法が異なります。また、適切な方法を選択し、正しく手続きを行わないと、思わぬトラブルに発展するおそれもあります。
目次
契約終了の主なパターン
契約が終了するパターンは、主に以下の5つに整理することができます。
1.有効期間の満了
契約に有効期間が規定されている場合には、有効期間が満了することによって、契約が自動的に終了します。
・有効期間条項の例
(有効期間) 本契約の有効期間は、本契約締結日から20●●年●●月●●日までとする。 |
ただし、契約によっては、期間満了の一定期間前までに契約を更新しない旨を相手方に通知しないと自動的に契約が更新される旨の条項(いわゆる自動更新条項)が設けられていることがあります。この場合には、期間が満了しても契約は自動的に終了しないので、注意が必要です。
・自動更新条項の例
(有効期間) 本契約の有効期間は、本契約締結日から20●●年●●月●●日までとする。ただし、有効期間満了日の●か月前までに本契約を更新しない旨の書面又は電磁的方法による通知がなされない場合、本契約は、同一条件にてさらに●か月間自動更新されるものとし、以後も同様とする。 |
2.更新拒絶
上記のような自動更新条項が設けられている場合には、契約で定められた予告期間内に、相手方に契約を更新しない旨の通知を行うことによって、期間満了をもって契約が終了します。
※一定期間にわたって契約が存続することが前提とされているような継続的な契約については、契約の文言上は契約の解消が可能な状態であっても、契約の解消が制限される場合があるため、更新拒絶にあたって慎重な検討を要することがあります。たとえば、裁判例では、一定期間継続して商品を供給し、売主が商標登録したブランドの使用を許諾する契約で、自動更新条項があり、契約締結時に双方とも長期の契約継続を考えていた等の事情から、更新拒絶にはやむを得ない正当な理由が必要としたものがあります(東京地判平成9年3月5日判時1625号58頁)。
3.合意解約
契約には法的な拘束力があるため、契約の当事者は、契約期間中、一方的に契約を終了させることができないのが通常です。しかし、当事者双方が合意をすれば、いつでも契約を終了させることができます。
4.解除
契約の当事者は、相手方に契約違反があった場合など、法律や契約に定められた要件を満たすことで、契約期間の途中であっても契約を一方的に終了させることができます。
解除は、あらためて相手方に債務の履行を求めること(催告)が必要かどうかで催告解除と無催告解除に分類され、どちらであるかは契約書の規定によります。
・無催告解除の例
(解除) 本契約の当事者が次の各号のいずれかに該当する場合、相手方は、何らの通知又は催告をすることなく、直ちに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。 (1)本契約又は個別契約に違反したとき (2)・・・ |
・催告解除の例
(解除) 本契約の当事者が本契約または個別契約に違反した場合において、相手方が相当の期間を定めて催告したにもかかわらず、違反が是正されないときは、相手方は本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。 |
※「相当の期間」は、客観的にみて、その債務を履行するために要する期間を基準に定めれば良く、企業間契約の単なる売買代金の支払い等であれば数日から1週間程度で設定することが考えられます。
5.中途解約
契約によっては、契約で定めた予告期間内に相手方に通知さえすれば、いつでも中途解約できる旨が規定されていることもあります。
・中途解約条項の例
(中途解約) 本契約の当事者は、本契約の有効期間中であっても、解約日の●か月前までの相手方に対する書面又は電磁的方法による通知により、本契約の全部又は一部を解除することができる。 |
※中途解約についても、上記の更新拒絶の場合と同様、契約の解消が認められない場合があるので留意が必要です。
なお、契約によっては、中途解約はできても、本来の契約期間満了までの代金の支払いは免れない旨が規定されている場合や、代金前払いの契約において支払い済みの代金は一切返金されない旨が規定されている場合があるので、解約時の条件に注意しつつ手続きを進める必要があります。
契約を終了させるための手続き
ここまで、契約が終了するパターンをみてきました。このうち、①有効期間の満了以外は、契約を終了させるために一定の手続きが要求されます。
そこで、以下では、契約終了のパターンごとに契約を終了させるために必要な手続きを整理します。
終了パターン | 必要な手続き |
1.有効期間の満了 | 特別な手続きは必要なし |
2.更新拒絶 | 契約で定められた期間内に、相手方に契約を更新しない旨の通知を行います。
契約で通知方法が規定されている場合はその方法によりますが、規定がなければ書面でもメールでも構いません。
👇更新拒絶通知書の書式例はこちらからダウンロードしてください |
3.合意解約 | 相手方と交渉の上、解約合意書を締結します。
解約合意書においては、解約する契約を特定した上で、契約終了日を明記することが重要です。また、清算条項(残債務の確認、返還物の確認、その他に本契約に関して債権債務が存在しないことの確認など)や存続条項(契約終了後も有効に存続させる条項の確認)を置くことも考えられます。
👇解約合意書の書式例はこちらからダウンロードしてください |
4.解除 | 相手方に契約解除の通知を行います。
解除通知書においては、解除する契約を特定した上で、契約上の条項に基づく解除の場合にはその解除の根拠条文を示して、解除する理由を明示します。 (なお、催告解除の場合は、書面において催告し、その書面内に、書面到達後●●日以内に違反が是正されない場合には解除する旨を記載するというやり方で解除の通知ができます。)
契約に通知方法が規定されている場合はその方法によりますが、規定がなければ書面で送付することが考えられます。
👇解除通知書の書式例はこちらからダウンロードしてください |
5.中途解約 | 契約で定められた期間内に、相手方に中途解約の通知を行います。
解約通知書においては、解約する契約を特定した上で、契約上の中途解約の根拠条文を示して、その条文に基づいて解約することを明示します。
④解除と同様に、契約に通知方法が規定されている場合はその方法によりますが、規定がなければ書面で送付することが考えられます。
👇解約通知書の書式例はこちらからダウンロードしてください |
契約期間途中に契約を終了させる場合の留意点
前述の通り、契約期間の途中に契約を終了させる方法としては、③合意解約、④解除、⑤中途解約があります。
このうち、④解除と⑤中途解約については、契約を一方的に終了させるものであることから、相手方が解除や中途解約の有効性を争うなど、紛争に発展する可能性があります。
そこで、契約を解消したい当事者としては、解除事由に該当することを立証できる資料が十分でない場合はもちろん、相手方との長年にわたる関係性を考慮して穏便に契約を解消させたいと考える場合は、まずは③合意解約の可能性を模索するべきと考えられます。
なお、有効期間の満了が近づいてきている場合には、有効期間の満了を待つか、②更新拒絶の意思表示によって契約を終わらせる方法も考えられます。契約を終了させたいと思ったら、まずは契約書で有効期間を確認することが重要です。
契約終了に関連する書面を相手方に送付する際の留意点
上記「契約を終了させるための手続き」に記載の通り、契約を終了させるにあたっては相手方に書面を送付することがあります。
書面を送付する方法に決まりはありませんが、普通郵便で送付した場合には、相手方が更新拒絶や解除等の通知がなされていないと主張してトラブルになったときに、更新拒絶や解除等の事実を容易に証明できないことに留意する必要があります。
そこで、契約が終了しないと高額の支払債務を負い続けるなどのリスクがある契約の更新拒絶を行う場合や、慎重に契約解除の手続きを進める場合等は、配達証明付きの内容証明郵便で送付することが考えられます。
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書が、誰から誰あてに差し出されたかを日本郵便が証明してくれるサービスです。また、配達証明は、その文書が相手方に配達されたという事実を日本郵便が証明してくれるサービスです。
これら2つを組み合わせることで、万が一、訴訟等に発展したとしても、通知書を送付し、相手方に到達した事実を証明することができます。